神話

 世界は創造神の「言葉」によって創られた。
 神は空を創り、大地を創り、海を創った。そして植物を創り、動物を創り、龍を創り、天使を創った。龍は力ある存在として世界に解き放ち、天使には「言葉」の使い方を教えて世界の運行を司らせた。


 ある時、一人の天使が神の創造をまねようとした。
 土塊を捏ね上げ、自分と同じような姿を形作ったが、その土塊は動く事は無かった。天使はその土塊にさまざまなものを混ぜて、再び形作ろうとしたが、それは醜悪な怪物か出来損ないの人形にしかならず、その天使はそのたびに悲嘆の声を上げながら世界の果てにある「奈落」にその出来損ないを棄てていった。


 一介の天使に創造を行うことは出来ないのか?
 創造は神の手で以ってしか出来ないのか?


 そこで、その天使は創造神から「言葉」を盗み、形を与えて封じ込めた。そして「言葉」は「ルーン」と呼ばれる力の結晶となり、その天使は力を得て神となった。
小さき神は「言葉」の力をもって土塊から生き物を創造した。それが我々人間である。
 他の天使たちもその小さき神の力にあこがれ、その行いを真似て「言葉」を盗み、神となっていった。そして様々な種族(妖精)が創造されていき、人間と妖精たちは世界にあふれかえっていった。




 ある時、創造神が「言葉」を発するのを止めて、そのまま姿を消していった。
 小さき神々は主たる父の喪失に、驚き戸惑い、互いにその行いをなじり始めた。


 星と光の神々がいわく〜
 多くの天使たちが力に溺れ、神を詐称していく様を“太陽の天使”は哀しき眼差しで天空から眺めていた。
 そして、ついに大いなる神は天使たちに失望し、姿を消し、世界は混乱に包まれた。
“太陽の天使”は導くもの無き絶望の世界を照らす光となるべく、神より受け賜りし13枚の翼のいくつかを兄弟たる天使たちに分け与え、共に小さき神になることを決意した。
 そして誕生した“太陽神”は、世界を新たな光で照らし始めたのである……大いなる神が帰還するその日まで。


 森林の神々がいわく〜
 世界を創りし父が姿を消し、多くのけものたちと木々はその身を護るために森へと逃げ込んできました。恐怖に震える彼らを護り、安心させるために、森の神は妖精を創り上げることにしたのです。
 森の神は己が子供のようにかわいがっていた樹を自分の姿に似せて型作り、木々の吐息と葉の上の雫をその上にちらして命を吹き込みました。
「冬が来て草花が枯れるように、大いなる父は姿を消してしまいました。私たちは春を待たなくてはなりません。それまでは、私たちの父が天使を創ったように、私は妖精を創り、この森とそこに住むもの達を護りましょう」
 そして生まれた妖精、エルフは森やその子らを護ることとなったのです。


 闇の神々がいわく〜
 あの大神は、凄い力を独り占めしていたからさぁ、盗まれてしまうのはしょうがない。
 そこで大きく構えていればいいものの、ちょっとかっさわられたくらいで、いじけて姿消すなんて、大人気ないと思わないか?
 まあ、こうなってしまったものはしょうがないから、俺たちは俺たちなりにやっていくしかなかったというわけさ。


 恐慌を起こした多くの小さき神々は、その罪を他の小さき神々に押し付け争いをはじめ、そして世界は「沈黙の冬」と呼ばれる神々の戦いの時代に入っていってしまった。


 その戦いを止めたのが、罪を犯し奈落に封じられていた「全てを焼き尽くす炎」の神であった。奈落の底で幾つものルーンを手に入れて「七つの相を持つ神」となったその闘神は奈落を護る銀龍の背にまたがり、停戦の角笛をこの大地の果てまで鳴らし、再びこの角笛の音が響く時までの神々の直接の戦いを禁じたのであった。
 それ以降、神々は自分の妖精に与えた「ルーン」の欠片を通してでしか、この地上の世界に対して力を発揮する事はなくなったのである。


 その後、人間と妖精たちの時代が訪れ、「ルーン」を巡る様々な争いに満ちた歴史の時代へと入っていくのであった……。