MAGEであるという事

『Mage:the Awakening』は簡単だけど、難しい。
一見矛盾しているような言説ですけど、これが正直な気持ちです。


旧版WoDのメイジ:ジ・アセンションと比べるとこの違いは、きっとわかり易いものとなるでしょう。
旧版のメイジは実に難しいシステムでした。
ルールブックは読みづらい、魔法のシステムは柔軟すぎてどう扱えば良いのかわかりづらく、それぞれのメイジの流派も(欧米流のサブカルチャーエスニック趣味などが入り込んでいて)日本人にはわかりづらいものが多い。さらに哲学的な思わせぶりな表現によって、理解し辛さに拍車をかけていました。
しかし、その世界の中に表現しているものは実に魅力的でした。
世界を席巻するテクノクラシーとそれに対するマイノリティーの戦い。世界の真実(世界は認識により変わりうる事)を知っているが為の、信念とアイデンティティーの戦い。長い世界の歴史の中に見え隠れするメイジの姿……具体的に何をすればいいのか、何をすれば勝利なのかについては答えを出す事が困難であっても、立ち向かうべきテーマと魅力的なシチュエーションには事欠かない、そんな世界が渦巻いていたのです。
だから、旧版のメイジは難しくとも(モチベーション、テーマに関しては)取っ付きやすいものであったのです。


しかし、新版のMage:the Awakeningは違います。
システム面に関してはWoD2.0シリーズ共通の整理されたコアルールを基本にとても分かりやすく、かつ回し易いシステムになっており、魔法に関しても、100ページを超える具体的な魔法の例を使うことによって幅広く、また運用しやすい形にまとまっています。
世界観に関しても、以前のような闇鍋の様に雑多な魔法観は薄まり、すべての魔法使いがアトランティスの(精神的な)末裔に位置付けられ、サブカル的要素はフレーバーに押しやられていき、「解かっていないと出来ない」状況からは脱却しています。
新版のシステムはこのように、以前と比べてはるかにプレイしやすいようになっています。前までのような、異常なまでの癖の強さは無くなり、普通にプレイできるTRPGとなったのです。


しかし、それによって、失われたものがあるのです。
ルールブックを読んでみた印象、まあ、僕の読み込みが足りないからなのかもしれませんが、このM:tAwには、それといったテーマが見出しにくい、と思いました。
臭みは抜いたものの味付けの薄まった世界観の中で、メイジであるという意義と意味が、僕には良く解かりませんでした。


わかりやすいところでいくと、敵の存在。
旧版のメイジではテクノクラシーという、強大で思想的に対立している魅力的な存在がいました。この存在により、メイジは二元論的に問題を突きつけられ、そしてその問題に立ち向かう過程の中で大衆と昇華という新たなベクトルの問題も浮き出されてきました。
しかし、新版の敵にはそれだけの魅力は感じられません。
敵としてなら、イデオロギー的な対立とはまた別次元にあるバニッシャー*1やメイジゴーストたちに僕の心が惹かれてしまうのは、現代を舞台としたTRPGとして、テーマが明確になっていない証拠なのではないのでしょうか?


そして、敵という問題にも関連しますが、M:tAwの世界はメイジにとって生き易過ぎるということ。
新版のWoDには、各システムに道徳/MoralityやHumanity、Harmonyというそれぞれの規範を示すパラメーターがあります。
当然M:tAwにもWisdomというものがありますが、これは人としての道徳規範と魔法使用の禁忌をあらわしている*2「魔法という力に溺れないようにする分別」のようなものですが、これが脅かされる状況を考えてみようとすると、少し困ってしまいます。
吸血鬼や人狼でしたら、その存在であること自体が社会的人間的な自己統一性*3の危機であり、超常の存在に変わってしまった自分の怪物性に、そして失われた過去に悩むということが容易でありますが、メイジの場合は何というか人間と地続きの存在に思えます。
ゆえに危機は内面的なものより、外的な危機(から、内面的な危機に転じること)が必要となるのですが、それに関しては、アトランティスと天上界が(目標として)遠すぎる上に、敵の格がなんと言うか、低い(ように僕には思えます)。
ゆえに、メイジには差し迫った危機も、何事を差し置いても果たすべき野望もなく、それから生まれる葛藤とドラマ性に向かい合うことも難しくなるのです。
アメリカや日本での安定した生活の中で、ちょっと魔法が使えるだけで人の道を踏み外すかどうかの問題に直面するというのは難しいことでしょうし、PCたちもそう易々と重い腰を上げようとしなくなるでしょうから。


その上さまざまなディテールなどの癖の強さが失われてしまった*4ために、いったい僕らは何を足懸かりとしてこのゲームをやっていけばいいのか、そんな疑問点が生じます。
ゆえにこのゲームはプレイしやすく、難しいのです。
むしろ、アトランティスの遺跡探索のダンジョンアタックに、時おりCabalやorderのゴタゴタが絡んでくる程度で割り切ったほうが楽にたのしめるかもしれません。


けど僕は、もう少し模索しようと思います。
ルールブックやサプリメントを読み込んでいけば、新たな提示や発見があるかもしれません。
また、人間としての危機に、メイジとして立ち向かうという観点で行けば、Wisdomも使うことは出来るでしょう。
だから、もうしばらく考察を続けていこうと思います。
まあ、今回は概論みたいなもんなので、論点がずれて話がわかりづらくなっているきらいはありますが、次からは要素を絞って各論的に進めていけば、何とかなるんじゃないかなあと思ってます。
呆れていないのでしたら、よろしければお付き合いしてくだされば幸いです。

*1:メイジとしてのAwakeningを新たなる世界へ導く祝福ではなく、暗黒へと陥れる呪いだと看做して、メイジと敵対する(本来メイジであるはずの)者

*2:正確に言うと違いは色々あるのだろうが、その考察に関してはまた今度ということにして、ここではこの説明にとどめる

*3:まあ、いわゆるIdentity

*4:旧メイジ:ジ・アセンションととMage:the Awakeningは現代世界に生きる魔法使いをやるゲームであるという部分しか、世界観的には引き継いでいるところはないので、こういう言い方はおかしいかも知れませんが